はじめに:哲学って何だろう?
「哲学」と聞くと、難解な専門書や抽象的な議論をイメージする人も多いでしょう。確かに哲学には深遠な思索の世界がありますが、その本質は私たちの日常にも密接に関わっています。
哲学(Philosophy)という言葉は、ギリシャ語の「フィロソフィア」に由来し、本来は「知恵を愛すること」「知への愛」を意味します。つまり、哲学とは知的好奇心を持って世界や自分自身について深く考える営みなのです。
この記事では、哲学初心者の高校生でも理解できるよう、哲学の基本から実践的な思考法まで、わかりやすく解説していきます。難しそうに感じるかもしれませんが、哲学は「自分の頭で考える力」を養う素晴らしいツールです。一緒に哲学の世界を探検してみましょう!
1. 哲学とは何か?その定義と意義
1-1. 哲学の定義:本質を追求する学問
哲学とは、物事を根本原理から統一的に把握・理解しようとする学問です。日常生活では「当たり前」として受け入れている事柄について、「本当にそうなのか?」「なぜそうなのか?」と問いかけ、その本質に迫ろうとします。
例えば、「知識とは何か」「良い生き方とは」「正義とは何か」といった根本的な問いについて、表面的ではなく深く考察するのが哲学の特徴です。
哲学者の苫野一徳は「哲学は『本質』を洞察することで、その問題を解き明かすための『考え方』を見出す営みだ」と述べています。つまり、哲学は単なる知識ではなく、思考の方法そのものを学ぶ営みなのです。
1-2. 哲学の領域:広がる探究の世界
哲学は幅広い領域をカバーしています。主な分野としては:
- 認識論:知識や真理について考える(「私たちは何を知ることができるのか」)
- 存在論:存在や実在について考える(「世界や物事はどのように存在しているのか」)
- 倫理学:道徳や善悪について考える(「何が正しく、何が間違っているのか」)
- 美学:美や芸術について考える(「美とは何か」「なぜ人は芸術に感動するのか」)
- 論理学:正しい推論の方法について考える(「どのように論理的に考えるべきか」)
これらの領域は互いに関連し合い、私たちの思考や生き方に様々な視点を提供してくれます。
2. 哲学の歴史と代表的な哲学者
2-1. 古代ギリシャ哲学:西洋哲学の源流
西洋哲学の歴史は古代ギリシャから始まります。特に重要な哲学者を見ていきましょう。
ソクラテス(紀元前470年頃〜399年):
「無知の知」で知られる哲学者です。「自分は何も知らない」という立場から対話を通じて真理を探究しました。「吟味されない人生は生きるに値しない」という有名な言葉を残しています。ソクラテスは「人間の徳(アレテー)」とは魂をよいものにすることだと考え、「知徳合一」(知識と徳は一致する)という思想を説きました。
プラトン(紀元前427年頃〜347年):
ソクラテスの弟子で、「イデア論」を展開しました。目に見える現実世界は、完全な「イデア(理想・本質)」の世界の影にすぎないと考えました。『国家』などの著作で理想的な社会について論じ、哲学者が統治する国家を理想としました。
アリストテレス(紀元前384年〜322年):
プラトンの弟子で、実証的・経験的な研究を重視しました。論理学や自然科学の基礎を築き、倫理学では「中庸」の徳を説きました。すべての行為には「目的因」があるとし、人間の究極の目的は「幸福(エウダイモニア)」であるとしました。
2-2. 近代哲学:理性の時代
デカルト(1596年〜1650年):
近代哲学の父と呼ばれ、「我思う、ゆえに我あり」という言葉で知られています。すべてを疑うことから始める「方法的懐疑」を通じて確実な知識を追求しました。心と身体を分ける「心身二元論」を主張しました。
カント(1724年〜1804年):
「純粋理性批判」で認識の限界を示し、人間の理性には認識できない「物自体」があると説きました。道徳においては「定言命法」を提唱し、普遍的な道徳法則を追求しました。
2-3. 現代哲学:多様な展開
ニーチェ(1844年〜1900年):
「神は死んだ」という衝撃的な言葉で知られる哲学者。既存の道徳や価値観を批判し、「力への意志」や「永劫回帰」などの概念を提唱しました。
サルトル(1905年〜1980年):
実存主義の代表的哲学者。「実存は本質に先立つ」という言葉に表されるように、人間は最初から決められた本質を持つわけではなく、自分自身の選択と行動によって自己を形成していく存在だと主張しました。
3. 哲学的思考を身につける:初心者のための実践ガイド
3-1. 哲学的思考の基本スキル
哲学の世界に足を踏み入れるためには、いくつかの基本的な思考スキルが役立ちます。
① 当たり前を疑う力
私たちは日常的に多くの「当たり前」を無意識に受け入れています。しかし、哲学的思考では、その「当たり前」にこそ疑問を投げかけることから始まります。
例えば:
- 「幸せとは何か」—お金や地位ではなく、もっと本質的な幸せとは?
- 「正しいとはどういうことか」—多数派の意見が常に正しいのか?
② 多角的に考える力
一つの問題に対して、様々な角度から検討する力は哲学的思考の核心です。
例えば、「SNSは良いものか悪いものか」という問いに対して:
- メリット:世界中の人々と簡単につながれる、情報収集が容易になる
- デメリット:プライバシーの問題、依存症のリスク、情報の信頼性の問題
- 哲学的視点:人間関係の本質とは何か、真の「つながり」とは何かを問う
③ 論理的に思考する力
哲学では、感情や直感だけでなく、論理的に筋道を立てて考えることが重要です。
論理的思考の例:
- 前提:すべての人間は死ぬ
- 前提:ソクラテスは人間である
- 結論:ゆえに、ソクラテスは死ぬ
3-2. 哲学的問いの立て方
哲学的な問いは、単純な「Yes/No」で答えられるものではなく、深い思考を促すものです。
良い哲学的問いの特徴:
- 開かれている(一つの正解がない)
- 根本的である(表面的な事象ではなく本質に迫る)
- 普遍的である(特定の状況だけでなく広く適用できる)
例えば:
- 「この映画は面白いか?」→「芸術作品の価値はどのように判断されるべきか?」
- 「どの大学に行くべきか?」→「教育の本当の目的とは何か?」
- 「この行動は正しいか?」→「道徳的な行動の基準とは何か?」
3-3. 対話的思考法:ソクラテス的問答
哲学者ソクラテスは、対話を通じて相手の考えを掘り下げ、真理に迫る方法を用いました。これは「ソクラテス的問答法」と呼ばれています。
実践方法:
- 相手の主張を聞く
- その主張の前提や理由を問いかける
- 矛盾点や不明確な点を指摘する
- より深い理解や新たな視点を共に探る
友達との会話でも、「なぜそう思うの?」「それはどういう意味?」と掘り下げて問いかけることで、日常的に哲学的対話を実践できます。
4. 哲学を学ぶ意義:現代社会での重要性
4-1. 批判的思考力を養う
現代社会では、SNSやインターネットを通じて膨大な情報が溢れています。その中から信頼できる情報を見極め、自分自身で考える「批判的思考力」が不可欠です。哲学はまさにこの力を養うのに最適な学問です。
批判的思考力があれば、フェイクニュースに惑わされず、広告やプロパガンダの意図を見抜き、自分自身の判断を下すことができます。
4-2. 複雑な問題への対応力
AI技術の発展、環境問題、グローバル化など、現代社会は複雑な課題に直面しています。これらの問題には単純な解決策はなく、多角的な視点から本質を見極める哲学的思考が求められます。
例えば、「AIと人間の関係はどうあるべきか」「持続可能な社会を実現するために何が必要か」といった問いに対して、哲学的アプローチは新たな視点を提供してくれます。
4-3. 自己理解と人生の意味の探究
「自分は何者か」「どう生きるべきか」といった問いは、人生において避けて通れません。哲学はこうした実存的な問いに真摯に向き合い、自分自身の価値観や生き方を見つめ直す機会を与えてくれます。
特に進路選択や将来の目標を考える高校生にとって、哲学的思考は単なる「就職のため」「周りがそうだから」という表面的な理由を超えて、自分にとって本当に大切なものは何かを考えるきっかけになります。
5. 初心者におすすめの哲学入門書
哲学に興味を持ったら、次は実際に本を読んでみましょう。初心者にも読みやすい入門書をいくつか紹介します。
① 『史上最強の哲学入門』(飲茶 著)
32人の哲学者の思想を物語形式で紹介。対話形式で展開されるため、難解な哲学思想も楽しく学べます。
② 『哲学入門』(筑摩書房)
基本的な哲学の概念やアプローチを平易な言葉で解説しています。
③ 『はじめて考えるときのように』(野矢茂樹 著)
日常の疑問から哲学的思考へと導く、わかりやすい入門書です。
④ 『ニュートン式 超図解 最強に面白い 哲学』(科学雑誌Newton 著)
図解を交えて哲学の基本概念をビジュアル的に解説。視覚的に理解しやすい構成になっています。
⑤ 『哲学と宗教全史』(出口治明 著)
古今東西の哲学や宗教について、その系譜や関係性をわかりやすく整理しています。
6. 高校生活に哲学を取り入れる実践的アプローチ
6-1. 哲学的日記をつける
毎日の出来事や考えたことを単に記録するだけでなく、「なぜ」「本当に」という視点を加えて振り返る習慣をつけましょう。
例えば:
- 今日嬉しかったことは何か?それはなぜ嬉しかったのか?
- 自分が大切にしている価値観は何か?それはなぜか?
- 当たり前だと思っていたことで、実は疑問に思うことはないか?
6-2. 哲学対話を実践する
友人や家族と「哲学カフェ」のような対話の場を設けてみましょう。哲学対話には次のようなルールがあります:
- 何を言ってもいい(否定や批判をしない)
- 人の意見に対して否定的な態度をとらない
- 発言せず、ただ聞いているだけでもいい
- お互いに問いかけるようにする
- 知識ではなく、自分の経験に即して話す
- 話がまとまらなくてもいい
- 意見が変わってもいい
- 分からなくなってもいい
6-3. 現代の課題に哲学的に取り組む
SDGs(持続可能な開発目標)や人工知能、多様性など、現代社会の重要テーマについて哲学的に考えてみましょう。
例えば:
- AI技術の発展は人間の価値や存在意義にどのような影響を与えるか?
- 環境保護と経済発展のバランスをどう考えるべきか?
- 多様性を尊重するとはどういうことか?その限界はあるか?
こうした問いについて友人とディスカッションしたり、小論文にまとめたりすることで、哲学的思考を実践的に鍛えることができます。
7. 哲学的思考が開く未来の可能性
哲学を学ぶことは、単に知識を得るだけでなく、21世紀を生きるための重要なスキルを身につけることにつながります。
① キャリアでの優位性
企業や組織は、複雑な問題を多角的に分析し、本質を見抜く力を持った人材を求めています。哲学的思考力は、どのような職種においても価値ある能力です。
② 社会課題への貢献
環境問題、格差問題、テクノロジーの倫理的課題など、現代社会は多くの複雑な問題に直面しています。哲学的思考力を持った若者の新鮮な視点が、これらの問題解決に貢献する可能性があります。
③ 個人の充実した人生
最終的に、哲学は「良い人生とは何か」を問う学問です。哲学的思考を通じて自分自身の価値観を明確にし、意識的な選択をすることで、より充実した人生を送ることができるでしょう。
まとめ:哲学は難しくない、考える喜びへの入り口
哲学は決して難解で遠い存在ではありません。むしろ、私たちの日常の中にある「なぜ」という素朴な疑問こそが、哲学の出発点なのです。
初心者にとって大切なのは、完璧に理解しようとするのではなく、考えること自体を楽しむ姿勢です。少しずつ哲学書を読んだり、友人と対話したり、日常の中で「当たり前」を疑ってみたりすることから始めてみましょう。
哲学的思考は、学校の成績向上だけでなく、人生の様々な場面で役立つスキルです。高校生活という貴重な時間の中で、ぜひ「考えること」の面白さと深さを発見してください。
哲学の旅は、あなた自身の中にある疑問から始まります。さあ、一歩踏み出してみましょう!
参考文献・おすすめ資料
- 『史上最強の哲学入門』(飲茶 著、河出文庫)
- 『哲学入門』(筑摩書房)
- 『はじめての哲学的思考』(苫野一徳 著)
- 『ニュートン式 超図解 最強に面白い 哲学』(科学雑誌Newton 著)
- 『哲学と宗教全史』(出口治明 著)



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